「よその子」・自閉症

 みんなの得意を売り買い・coconala(ココナラ)、超おもしろい。
 いやもう、このフレームを考えついたひとがすごい。
 以前一度利用したことがある。
 オルゴナイトに興味を持って、ネイルパーツとして使えるオルゴナイトが売っていないかな、と検索したときに辿りついて、購入した。
 
 で、ふとそういえばパーソナルカラー診断っていうのをやってもらいたいなあと思っていたのを思い出して、
 ネットで色々見ていると、
 実地にマンツーマンでやるのは4~5時間で38000円、また別のお店では2時間で8000円、
 さらに調べていると、ココナラというサイトでは500円からとかあるそうで、
 500円って大丈夫ですか、
 その大丈夫っていうのは信憑性とかいうよりも、それでその商売、ビジネスって採算とれるの、っていう、自分の損得よりもそれを展開している相手方への不審感。
 ブログで知り、実際に見てみたら、評判も高く口コミ数も多く、いまは4000円に値上げしていた。
 ああよかった、と思う。
 なんかわかんないけど。
 
 それで何がおもしろいって、ココナラではパーソナルカラー診断だけじゃなくて、あなたのインナーチャイルドを癒します(遠隔で)、とかいう「商品」も売っているの。
 いや、なんかすごいな、と思って圧倒されてしまった。
 なんでも売っていますね。

 ビジネスがおもしろい。
 損得がおもしろい。
 夢がおもしろい。
 
 夢を追いかけるよりも、
 もっといえば夢を貪るよりも、夢を提供するっていうことは、どういうことなんだろうって、
 ここ最近ずっと、一日のうちに何度も思い出すんだ、その疑問を。
 
 たしかに欲っていうのは、すばらしい。
 わたしには欲がなくて、ただ羞恥心ばかりだった。


 こないだ職場の休憩室で、テーブルを囲んでわたしを含め三人がすわり、自分が立ち上がってまわりこめば用を足せるところを、敢えて言うならば横着をして、それ取って、と頼んだひとがいる。
 取って、と言われたひとも、立ち上がらなきゃどうも簡単にはそれを取れない、という状況で、
 やだ、自分で取れよ、と答えた。
 近いんだから取ってよ、となおも頼まれ、立ち上がらずに無理にとった結果、それを止めていたマグネットがはじけて転がった。
 
 わたしはそれらのやりとりを聞いていて、いやだ、自分で取れよって言った子に、あなたはだって、自分の用は自分で足そうとするものね、と言った。
 頼んだ方はなんで?人をつかうって必要なことじゃない?なんていう。
 それらもそれらで追及すればおもしろそうではあったが、
 わたしはふと、思いついて、
 わたしは小学校低学年のころ、消しゴム貸してって言えない子だったと言った。
 なんで?と聞かれる。
 さあ、なんでだろう、それが謎だったから今もこうして覚えているのだ。
 消しゴム貸してって平気で言える子ってどんな気持ちでそれを言えるんだろうって不思議だったっていうと、
 いや、そりゃ貸してほしいっていう気持ちでだろ、と言われて、
 そういえばそうだけどさ。
 わたしだってそれを貸してほしいという気持ちはあったよ。
 
 でもなんか気後れする。
 その気後れするわけを、ずっと色々と思い返したりするのだ。
 こないだまたそれを蒸し返して思いついたのは、
 ようするにわたしが、「消しゴム貸して」と自発的に他人に働きかける以前には、まったくひとつもわたしは自分から他人と交流を持とうとしなかったから、
 そして持とうとしなかったのに今ふいに必要にかられて持とうとするのは、自分の都合、自分の不便さを解消するためによるものなのか、と気づくとなんかもう気後れしちゃって、どうしても言えない、というようなこと、かもしれなかった。
 わたしはまだ覚えているんだ。
 それで結局どうしたかって、指でこすり、唾をつけてこすり、なんとか消した上で答えを書いたことを。
 でもそれはとても醜かった。
 消しゴムがあればそんなに醜いものにはならなかった。
 むりやりに消したそれ、はとても汚れてしまった。
 こんなふうに汚してしまうくらいなら、どうして消しゴムを貸して、というたった一言が言えなかったのだろうと。
 自分が実に馬鹿げたことに労力を費やしているのだってことが、汚してしまったそれ、を見てわかっていた。

 「よその子」を読み終えた。
 わたしはやっぱり泣いてしまった。
 場面として印象に残るのは、トリイと、ロリと、裸のブーがロッキングチェアでほとんど一体の像のようになっている姿、(美しい)
 トマソがクマのぬいぐるみをプレゼントされてめちゃくちゃ攻撃的になってしまうその心情、(わからなくはない)
 それから、ロリの双子の姉、リジーが不意に登場する場面の前後。
 ロリは識字障害、その担任の定年間際の先生は、わたしからすればとんでもなく傲慢だ。
 とんでもなく傲慢で、とんでもなく羞恥心に欠けていて、とんでもなくただ、むなしいまでに弱い
 リジーはいう。
 わたし、ロリを傷つけたあの先生に絶対に唾を吐いてやる。
 あんな先生なんて車に轢かれて死んでしまえばいいと。
 わたしはロリがなぜ字を読めなくなってしまったのか知っているの。
 お父さんがひどくロリを殴った。
 わたしのことも殴ったけど、ロリのことは特にひどく殴ったの。
 (ロリは殴られて頭蓋骨骨折をしている)
 わたしはお父さんのことを絶対に殺してやるって決めているの。…
 でも。
 でもなぜ、ロリなの。
 なぜ、ロリだけがそうなの。
 わたしたちは双子で、双子の間に秘密はない。
 なのになぜ、わたしには字が読めて、ロリには字が読めないの。
 なぜロリは字が読めないことによって、あんなにも悲しく辛い思いをして、その決して本当には共有できない思いが、
 秘密がないはずの二人の間に秘密を作ってしまうの?
 
 ほとんど哲学的なまでに圧倒的に迫ってくる、深遠で心を震わせる謎。

 そして、ブーだ。
 ブーは自閉症だから、ほんのたまに見せる、外側から観察できる徴候をしか記されてはいないが、
 わたしはなんだか、その意味不明な行動のわけをわかるような気がする。
 クローディアと二人のときに暴れ狂った、というか、ほとんど狂気のように他人にはわからない振る舞いをしたブー、
 血を流すまで肌を引っ掻き、裸になり。
 
 わたしにはある。
 それは足の方からやってくる感覚だ。
 足の方からやってきて、頭の先まで浸食しようとして。
 自分の皮膚が、自分の身体が、まるで違和感そのもののようになって、ものすごく気持ちが悪い。
 この肌を剥ぎ取りたい。
 いや、剥ぎ取りたいのは肌、なのだろうか。
 この表面的な肌を叩いても掻いても解消されない違和感に満ちた不快さ。
 それを引っ掻く指だってこの気持ちの悪い皮膚の延長にすぎない。
 
 その感覚がふいにわたしを襲ってくるとわたしは身悶えして、ただそれに堪えるしかなかった。
 そうした感覚が子供のころには、何度かあった。
 ああ、また、どうしようもなく不快なこれが来た、とわたしは察する。
 いまはない。
 もうずっと、ない。

 でも覚えている。

 わたしが皆、
 皆とは言わないが少なくとも、わたしだって程度の差はあれ自閉症だ、と思うのは、
 例えばそうした感覚を覚えているからだ。
 いまだにあれは、なんだったんだろうって不思議で仕方がないからだ。

 

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