殺さずに殺す方法を考え中。

 言葉は二重に響かせなければ、一重では捉えきれなくてふらふらする、ということを思った。
 このことを、どうしても言葉は裏切る、あらかじめ矛盾する、言葉では言い表せないものがある、とわたしは感じていた。
 二重にしなきゃ終わることなくメビウスの輪を回り続けることになる、自分がそうしているとも気づかず、どこかそうであることを気づきながら打つ手もなく。
 
 わたしは言葉を二重に響かせる。
 三重、四重ということもある。
 そうして安定感と、重なり合った和音の響きを楽しむ。

 どこかふざけたような余白、遊びを残しておかないと、詰まる。
 彼らは一重を拾って響く。
 そして勝手に崖から転がり落ちる。
 わたしは落ちない。
 
 公衆の面前で汚らしくオナニーをしているやつ。 
 あんなもの痴漢と変わりない、とわたしがいう。
 触られたんですか、というから、身体に触るだけが痴漢じゃないやろ、と返す。
 また別のひとにも同じようなことを言ったら、
 いまにはじまったことじゃないやろ、と返ってくる。
 いや、
 いまにはじまったことじゃない、だから何。
 いつはじまって、なぜいまもそうしているの。
 そんなありきたりな逃げ口上で、わかったふうな口をきくおまえはなんや。
 とちょっと向かう相手を変えたかのように向き直る。
 いわば、物騒で後先のないことだが、喧嘩に備えた小手調べをしていた。
 
 負ける喧嘩はできないし、相手を負かすことは自分に負けているようでいやだ、などと生温いことを言うのはやめだ、
 喧嘩上等だ、と思い決めていた、勝手に。
 だいたい、復讐だとか、仕返しだとか、思っている時点で甘いんだよ。 
 それは単に喧嘩でいい。
 人殺しもできないようなやつが、人殺しに勝てることはない。
 絶対に勝てないんだよ。
 だからって実際に殺せというわけじゃない、覚悟の問題なんだよ、
 人を殺しちゃうやつは覚悟を決めているようでそうじゃない、
 あれは単に喧嘩に勝ちに行っているだけ、
 そうして、勝つことで自分に負けている。
 
 自分に負ければいいんだ、と思った。
 上等じゃないか。
 自分に負けもできないやつが、何を言える。

 とはいえ、自分から唐突にふっかけるなんていう早まったことはやめにして、刃を鋭利に研ぎながら、機を伺うことにした。
 向こうからやってくる機を捉えて、一刀のもとに殺したら相手が負けを噛み締める時間もないだろうから、二刀目で必ずやる。
 こんな策でどうだろうか。
 誰にきいているんだろうか。
 周りの目もあるからな。

 あんな、公衆の面前で汚らしくオナニーをしているやつ、と罵っているとまわりがちょっと引く。
 その引きを実際の手応えとして量っている。
 これは、やつだけがそう、という話じゃないので実に物騒なんだ。

 下手したら周りが全部敵になっちゃうようなことに手を出している。
 まあ、下手にはやらないつもりだけど、
 わたしは100対1でもいく。
 死ににはいかない。
 自殺を相手に手伝ってもらうなんて、公衆の面前でオナニーをしているやつより罪深いものがある。
 そんなことはできないよな。